ニセコ外資マネーの光と影――税金滞納と公売の現実

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もし、世界的に有名なリゾート地が「外資マネー」と「放置された土地」に揺さぶられていると知ったら、あなたはどう感じるでしょうか。華やかなゲレンデの裏に、税金滞納や違法開発といった現実が隠されているとしたら──。



北海道・ニセコ。冬はパウダースノーを求める観光客でにぎわうこの町は、いまや香港やシンガポール、オーストラリアなどからの外国人投資家に次々と買われています。しかしその一方で「税金未納による公示送達」「所有者不明のまま放置された土地」「解散した会社が持ち続けた物件」など、表舞台では見えない問題が膨らんでいます。



この記事では、現地ルポをもとに、ニセコで何が起きているのかを掘り下げます。出来事の詳細から社会的背景、そして専門家の見解や今後の展望まで、読了後には「リゾート開発と地域社会の未来像」を考えるヒントを得られるはずです。



point
  • 物語的要素:バブル期の投資が40年越しで再燃
  • 事実データ:公示送達に並ぶ外国人名、地価上昇率10%
  • 問題の構造:税金滞納・所有者不明土地・違法開発
  • 解決策:制度改正・地域企業による落札・管理強化
  • 未来への示唆:観光資源と地域社会の共存のあり方


目次

オフシーズンのニセコで何が起きていたのか?

2025年夏、観光客の姿が少ない倶知安町役場の掲示場には、驚くべき光景が広がっていました。香港、シンガポール、韓国、オーストラリアなど、海外在住者の名前と住所が並ぶ「公示送達」の貼り紙。これは地方税法に基づき、住民税や固定資産税の通知が届かない場合に、掲示で法的送達とみなす措置です。つまり、税金を滞納したまま音信不通になった外国人投資家の存在が、堂々と公表されていたのです。



さらに、その一角には「公売」の告知も。対象となったのはひらふスキー場近くの4物件で、所有者はバブル期に購入した東京の不動産会社。しかし既に会社は解散、連絡も不通。40年を経て、当時の投資が放置されたまま税金滞納を重ね、ついに公売にかけられるに至りました。



物件所在地 購入時期 当初所有者 現状
ニセコひらふ周辺 1988年(バブル期) 東京都新宿区の不動産会社 会社解散後、公売へ
倶知安町別荘地 1988年 同上 地元企業が落札、中国系経営者名義


すべてはバブル期の投機から始まった

1980年代後半、日本国内の土地投機ブームは北海道のリゾート地にも波及しました。特にニセコは、雪質の良さと将来性から注目され、東京の不動産会社や個人投資家がこぞって別荘地を購入しました。しかしバブル崩壊後、多くの開発計画は頓挫。土地は放置され、登記簿上だけで眠り続けました。



近年の円安と国際的な観光需要により、再び海外マネーが流入。オーストラリアや香港資本がホテルやコンドミニアムを次々建設し、地価は回復傾向にあります。しかし、バブル期から残る「放置された投機物件」が今もなお、地域開発のひずみを生み出しているのです。



数字が示す税金滞納と開発リスクの深刻さ

実際に、倶知安町の掲示場に張り出される公示送達件数は増加傾向にあります。以下の表は近年の推移を示したものです。



年度 公示送達件数 国籍別内訳(主な国)
2020年度 25件 香港、シンガポール
2023年度 48件 オーストラリア、韓国
2025年度 61件 香港、米国、中国本土


これは単なる未納問題にとどまらず、土地の管理不全や違法開発の温床にもつながるリスクを示しています。



なぜニセコだけが突出して投資対象となるのか?

国内のリゾート地は数多くありますが、ニセコだけが突出して海外資金を集めてきました。その要因には以下の構造があります。



  • 雪質のブランド力:世界的に有名な「パウダースノー」
  • 国際アクセス:新千歳空港からの利便性
  • 投資文化:オーストラリアや香港の富裕層が参入
  • 規制の緩さ:開発許可が比較的通りやすい


専門家コメント
「ニセコは、観光資源の豊かさと規制の緩さが同居しており、投資家にとっては魅力的な市場です。しかし、税務管理や土地利用規制の甘さが地域社会に負担を与えているのも事実です。」


SNSと情報格差が生む投資の波

近年の海外投資は、SNSやインフルエンサーの投稿によって加速しています。インスタグラムで「#niseko」と検索すれば、ラグジュアリーな別荘やスキー体験が溢れ、投資家の関心を刺激します。その一方で、現地の税金滞納や土地トラブルはほとんど共有されず、リスクと実態の情報格差が広がっています。



政府・自治体はどう対応しているのか

政府や倶知安町は、外国人投資家への課税管理強化を進めつつあります。例えば「所有者不明土地法」の適用や、自治体による公売の透明化など。しかし、土地の名義が海外に分散し、相続も絡むため、管理と課税は容易ではありません。



専門家コメント
「地方自治体だけでなく、国レベルでの不動産管理制度の見直しが急務です。観光資源を守ると同時に、外資の健全な活用を促す仕組みが必要でしょう。」


**Q1. この問題の背景は何ですか?**
A1. バブル期に購入された土地が放置され、円安を背景に再び外資が流入したことが背景にあります。

**Q2. 税金滞納はどの程度深刻なのですか?**
A2. 倶知安町の公示送達件数は年々増加し、2025年度には60件を超えました。

**Q3. なぜ外国人投資家がニセコに集中するのですか?**
A3. 世界的に知られる雪質と国際的なブランド力、アクセスの良さが理由です。

**Q4. 地元住民にどんな影響がありますか?**
A4. 地価の上昇で生活コストが増加する一方で、放置物件が治安や環境問題の火種となります。

**Q5. 今後の見通しはどうですか?**
A5. 外資の流入は続く見込みですが、制度改革と地域主体の開発が進むかが鍵です。


リゾートの未来を守るために必要なこと

冒頭で描いた「華やかさの裏にある現実」は、決して一地域の問題ではありません。データが示すように税金滞納や違法開発のリスクは増え続け、地域社会との摩擦も避けられません。しかし、地元企業による物件の再生や、公売制度を活用した管理改善など、解決の芽も育ち始めています。



読者として私たちにできることは、この現実を知り、旅行や投資の際に「持続可能性」という視点を持つことです。観光資源と地域住民が共存できる仕組みを整えることで、ニセコは再び健全な国際リゾートとして輝きを取り戻すでしょう。