愛犬の認知症を防ぐ3つのポイント 獣医師が教える家庭でできる予防法
■ 犬の認知症予防・対策の概要| 病名 | 高齢性認知機能障害、認知機能低下症候群 |
|---|---|
| 発症年齢 | 10歳を超えると急増 11~12歳:28%、15~16歳:68%の有病率 |
| 主な症状 | 飼い主を忘れる、おびえる、攻撃的になる Uターン・後退不可、夜中にほえ続ける 重症例:その場で回り続ける、意味なく歩き続ける |
| 予防の3原則 | ①運動 ②脳トレ ③食事 |
| 専門家 | 東京農工大動物医療センター 入交真巳獣医師 |
| 重要ポイント | 早期発見が最重要 飼育環境見直し、サプリメント・医薬品で改善可能 |
「人間と同じ対策を」運動・脳トレ・食事で認知症を予防する方法
東京農工大動物医療センターの入交真巳獣医師は、犬の認知症予防について「人間と同じで、運動と脳トレ、食事に気を配ってほしい」と強調する。長寿命化が進む飼い犬において、これら3つの要素は認知機能の維持に欠かせない基本対策となっている。人間のアルツハイマー型認知症に似た犬の病態は、医学的には「高齢性認知機能障害」「認知機能低下症候群」などと呼ばれる。主な症状としては、飼い主を忘れる、おびえる、攻撃的になる、Uターンや後退ができなくなる、夜中にほえ続けるといったものが挙げられる。症状が進行すると、その場でクルクル回り続けたり、意味もなく歩き続けたりする深刻なケースもある。
しかし、入交獣医師は「いくつかの方法で予防したり進行を遅らせたりすることはできる」として、家庭で実践できる具体的な対策を提示している。以下、3つのポイントを詳しく見ていこう。
**ポイント①:運動で体と脳を活性化** 運動は、単なる体力維持だけでなく、脳への血流を促進し認知機能の維持にも貢献する。散歩はもちろん重要だが、それだけにとどまらない。お座りと起立を繰り返す動作や、柔らかいクッションの上を歩かせるといった室内でできる運動も効果的だ。
クッションの上を歩く運動は、不安定な足場でバランスを取ることで、脳の運動制御機能を刺激する。高齢犬でも無理なく取り組め、雨の日や外出が難しい状況でも継続できる利点がある。
ただし、入交獣医師は「無理な運動は禁物」と注意を促している。高齢犬の体力や関節の状態を考慮し、負担をかけすぎない程度の運動を心がけることが大切だ。犬の様子を見ながら、疲れすぎない範囲で楽しく続けられる運動を選ぶことが、長期的な認知症予防につながる。
**ポイント②:脳トレで認知機能を刺激** 犬も人間と同様、脳を使うことで認知機能の低下を防ぐことができる。「脳トレ」の方法としては、転がすことでおやつが出てくる「知育トイ」の活用が挙げられる。市販品を購入しなくても、空き箱など家にあるものを工夫して代用することも可能だ。
例えば、タオルやブランケットの中におやつを隠し、犬に探させるゲームも効果的な脳トレになる。嗅覚と記憶を使って探す行動は、脳の複数の領域を刺激する。また、高齢になっても新しく芸を覚えることができるため、飼い主と楽しくコミュニケーションをとりながら新しい指示を教えることも良薬になる。
重要なのは、犬が楽しみながら頭を使う機会を日常的に提供することだ。単調な生活ではなく、適度な刺激と変化のある環境が、認知機能の維持に役立つ。
**ポイント③:食事は総合栄養食のドッグフードが推奨** 食事面では、総合栄養食であるドッグフードがおすすめだという。入交獣医師によれば、「遺伝子栄養学の知識がないまま手作りするより、年齢に応じて必要な成分が計算されているフードの方が安全性が高い」とのことだ。
高齢犬用のドッグフードには、認知機能をサポートする成分が含まれているものも多い。DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸、抗酸化物質、中鎖脂肪酸などが配合されたフードは、脳の健康維持に役立つとされている。
手作り食に愛情を込める飼い主も多いが、栄養バランスが崩れると健康を損なうリスクがある。特に高齢期には、適切な栄養管理が認知症予防の鍵となるため、専門家が設計した総合栄養食を基本とすることが推奨される。
10歳超えでリスク急増 15歳で68%が認知症該当という研究報告
犬の認知症は昔からある症状だが、ペットフードや医療の発達、室内飼いの増加により長寿化した結果、認知症症状に気づくケースが増えている可能性があると入交獣医師は指摘する。英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された研究報告によると、犬の認知機能障害の有病率は年齢とともに顕著に上昇する。具体的には、11~12歳で28%、15~16歳では実に68%に達するという。
さらに注目すべきは、10歳を超えると発症リスクが急激に高まり、1年ごとに認知症になる確率が約68%高くなるという統計だ。つまり、10歳を境に加速度的にリスクが増大するため、この年齢に達したら特に注意深く観察する必要がある。
人間の場合、認知症は「年齢を重ねれば誰でもなり得る病気」とされるが、犬も同様である。長生きすればするほど、認知機能の低下は避けられない面がある。しかし、だからこそ予防と早期発見が重要になる。 ■ 犬の年齢別認知症リスク
| 犬の年齢 | 有病率 | リスクの特徴 |
|---|---|---|
| 〜10歳 | 低い | 発症リスクは比較的低いが予防開始推奨 |
| 11〜12歳 | 28% | 10歳超えで急増開始 約3頭に1頭が該当 |
| 15〜16歳 | 68% | 約7割が認知機能障害に該当 早期発見・対策が不可欠 |
| リスク増加率:10歳超えから1年ごとに約68%ずつ認知症リスクが上昇 | ||
早期発見が最重要 愛犬の「異変」に気づくチェックポイント
入交獣医師は「総じて大事なのは異変に早く気づいてあげることだ」と強調する。飼育環境の見直しや、サプリメント・医薬品によって症状が改善することもあるため、早期に異常を察知し、獣医師に相談することが何よりも重要だ。**認知症の初期症状チェックリスト** 以下のような行動が見られたら、認知症の初期症状かもしれない。
– 飼い主の顔や名前を忘れたような反応をする
– 理由もなくおびえたり、不安そうにする
– 普段は温厚なのに攻撃的になる
– 狭い場所に入り込んでUターンや後退ができなくなる
– 夜中に突然ほえ続ける(昼夜逆転)
– お漏らしが増える
– 食欲や飲水量に変化がある
– 同じ場所をクルクル回り続ける
– 目的もなく歩き続ける
これらの症状が一つでも見られたら、単なる老化と決めつけず、獣医師に相談することが推奨される。早期であれば、生活環境の改善や適切な治療により、症状の進行を遅らせることができる可能性が高い。
**飼育環境の見直しポイント** 認知症の予防や症状緩和には、飼育環境の見直しも有効だ。例えば、高齢犬が安心して過ごせる静かな居場所を確保する、段差をなくしてバリアフリー化する、照明を適切に保ち昼夜のリズムを整えるといった工夫が挙げられる。
また、定期的な健康診断を受け、認知症以外の病気(甲状腺機能低下症、脳腫瘍など)との鑑別診断を受けることも重要だ。認知症と似た症状を示す別の疾患が隠れている場合もあるため、専門家の診断が不可欠である。
🐕 認知症予防の3ステップ
運動
散歩・お座り起立
クッション上歩行
脳トレ
知育トイ・新しい芸
楽しく刺激
食事
総合栄養食
年齢に応じた栄養
予防・遅延
早期発見
異変に気づく
FAQ:犬の認知症に関するよくある質問
Q1. 犬の認知症は何歳から注意すべきですか?
A. 10歳を超えると発症リスクが急激に高まります。研究によれば、11~12歳で28%、15~16歳では68%の有病率とされています。10歳を境に1年ごとに約68%ずつリスクが上昇するため、10歳に達したら特に注意深く観察し、予防対策を強化することが推奨されます。
Q2. 手作り食ではダメなのでしょうか?
A. 入交獣医師によれば、「遺伝子栄養学の知識がないまま手作りするより、年齢に応じて必要な成分が計算されているフードの方が安全性が高い」とのことです。愛情を込めた手作り食も素晴らしいですが、特に高齢期には栄養バランスが重要です。総合栄養食のドッグフードを基本とし、必要に応じて獣医師の指導のもとで補完することをお勧めします。
Q3. 運動はどの程度させればいいですか?
A. 犬の年齢、体力、健康状態によって異なりますが、無理な運動は禁物です。散歩だけでなく、お座りと起立を繰り返す、柔らかいクッションの上を歩かせるといった室内でできる運動も効果的です。犬の様子を見ながら、疲れすぎない範囲で楽しく続けられる運動を選びましょう。
Q4. 脳トレはどのようなことをすればいいですか?
A. 転がすとおやつが出てくる「知育トイ」が有効です。市販品でなくても、空き箱など家にあるもので代用できます。タオルの中におやつを隠して探させる、新しい芸を教えるなど、犬が楽しみながら頭を使う機会を日常的に提供することが大切です。飼い主とのコミュニケーションも良薬になります。
Q5. 認知症の初期症状が見られたらどうすればいいですか?
A. 早めに獣医師に相談することが最も重要です。飼育環境の見直しや、サプリメント・医薬品によって症状が改善することもあります。単なる老化と決めつけず、専門家の診断を受けることで、認知症以外の病気との鑑別も可能になります。早期発見・早期対応が症状の進行を遅らせる鍵となります。
Q6. 夜中にほえ続けるのは認知症の症状ですか?
A. 夜中にほえ続けることは、犬の認知症の代表的な症状の一つです(昼夜逆転)。ただし、他の病気や環境要因(騒音、寒さなど)が原因の場合もあるため、獣医師の診断を受けることが必要です。認知症であれば、生活リズムを整える工夫や適切な治療が有効です。
Q7. 犬の認知症は治りますか?
A. 現時点では、犬の認知症を完全に治す方法は確立されていません。しかし、運動・脳トレ・食事による予防、早期発見、飼育環境の見直し、サプリメント・医薬品の使用により、症状の進行を遅らせたり、改善させたりすることは可能です。愛犬の生活の質(QOL)を維持するために、できることから始めることが大切です。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 病態 | 人間のアルツハイマー型認知症に似た高齢性認知機能障害 昔からある症状だが、長寿命化で顕在化 |
| 発症リスク | 10歳超えで急増、1年ごとに約68%上昇 11~12歳:28%、15~16歳:68% |
| 主な症状 | 飼い主を忘れる、おびえる、攻撃的になる Uターン・後退不可、夜中にほえる 重症:回り続ける、歩き続ける |
| 予防法①運動 | 散歩、お座り起立の繰り返し、クッション上歩行 無理は禁物、楽しく継続 |
| 予防法②脳トレ | 知育トイ、空き箱利用、おやつ探しゲーム 新しい芸、飼い主とのコミュニケーション |
| 予防法③食事 | 総合栄養食のドッグフード推奨 年齢に応じた成分配合、栄養バランス重視 |
| 最重要ポイント | 異変の早期発見 飼育環境見直し、サプリメント・医薬品で改善可能 |
| 専門家 | 東京農工大動物医療センター 入交真巳獣医師 犬の問題行動専門 |
長寿犬時代に求められる「認知症との向き合い方」
ペットフードや医療技術の進歩、室内飼いの普及により、犬の寿命は年々延びている。それは喜ばしいことである一方、人間と同様に認知症という課題に直面する犬が増えているという現実もある。15~16歳の犬の実に68%が認知機能障害に該当するという統計は、長寿犬時代における新たな課題を浮き彫りにしている。しかし、入交獣医師が強調するように、「運動・脳トレ・食事」という人間と同じ基本的な対策で、予防や進行を遅らせることは可能だ。そして何よりも重要なのは、「異変に早く気づいてあげること」である。
愛犬の小さな変化を見逃さず、おかしいと感じたらすぐに獣医師に相談する。飼育環境を見直し、適切なケアを提供する。サプリメントや医薬品の助けを借りる。これらの対応により、症状の改善や生活の質の維持は十分に可能である。
犬は家族の一員であり、かけがえのないパートナーだ。長く健康に、そして幸せに過ごしてもらうために、飼い主としてできることは数多くある。この記事で紹介した3つのポイントを日常生活に取り入れ、愛犬との時間をより豊かなものにしていただきたい。
「異変に早く気づいてあげること」
獣医師が最も強調する、愛犬の認知症対策の基本。
運動・脳トレ・食事の3つの習慣と、日々の観察が、
大切な家族の健康を守る鍵となる。
参考情報・出典
信頼できる報道に基づいています
「愛犬の認知症を防ぐには 獣医師が教える三つのポイント」
| 配信日: | 2025年11月10日 17:00 |
| 配信元: | 毎日新聞 |
| 配信元協力: | 東京農工大動物医療センター 医師 ※犬の問題行動専門 |
| 参考研究: | 英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」 |
※本記事は毎日新聞の報道を基に、飼い主が実践できる具体的な予防法と科学的知見を詳しく解説しています。最新の研究データと専門家の見解を組み合わせ、家庭でできる対策を中心に構成しました。
