青森県三戸町のラーメン店で11月9日、57歳の男性店員が突然クマに襲われた。体長約1mのクマが顔に向かって飛びかかり、右脇腹を骨折、顔から流血するほどの重傷を負いながらも、男性は無我夢中で反撃。柔道の「大外刈り」のような動きでクマを投げ飛ばし、結果的に撃退することに成功した。冬眠を控えながらも出没件数が過去最多となっている中、現場で起きた“数秒の死闘”が地域の警鐘となっている。
クマが店員に飛びかかる瞬間 「大きい犬だと思ったら…」
青森県では11月24日時点でクマの出没件数が2796件と、過去最多を大幅に更新している。そんな中、ラーメン店「麺工房てんや」で働く57歳の男性店員がクマに襲われた。事件は朝の仕込み作業中に突然発生し、クマはまるで“丸太が転がるように”迫ってきたと証言する。男性は顔を目掛けて飛びかかるクマに反射的に拳で応戦し、その後、柔道の「大外刈り」のような動きで投げ飛ばして撃退したという。
■ 襲撃事件の基本情報
| 発生日時 | 2025年11月9日 朝(午前5時頃) |
|---|---|
| 発生場所 | 青森県三戸町「麺工房てんや三戸店」裏口付近 |
| 被害者 | 男性店員(57) |
「顔に飛びかかってきた」――体長1mのクマとの数秒の死闘
男性店員は、朝の仕込みでガス栓を開けるため外に出た瞬間、店の裏側から影のように近づく動物を目撃した。最初は「大きな犬」だと思ったという。しかし距離が縮まった瞬間、クマが「ガオッ」と吠えて飛びかかってきた。
クマの体重が勢いのままぶつかり、男性は右脇腹に激痛を覚える。顔面にも鋭い衝撃が走り、瞬く間に右目付近の頰が裂けた。しかし男性は恐怖よりも“本能的な反射”で拳を繰り出し続けた。
男性は「丸太に殴っているようだった」と振り返る。拳を入れても手応えがなく、クマは怯む様子もない。男性は「このまま押し倒される」と感じ、脚を使って体勢を崩す判断を下した。
咄嗟に繰り出されたのが、柔道経験者なら反射で出る「大外刈り」に近い動きだった。男性はクマの脚を引っ掛け、体を預けるようにして横へ崩し、ゴロンと転がすように倒したのだ。
倒れたクマは一瞬驚いたように後退し、そのまま森へ走り去っていった。店員は静まり返った朝の空気の中、初めて自分の体が血だらけであることに気づいたという。
骨折・顔の裂傷…それでも「店を開けなければ」と準備を続けた店員
クマが逃げた後、男性は右脇腹の激痛と右目付近から流れる血に気づいた。しかし、タオルで圧迫しながら店に戻り、開店準備を続けた。「店を開けるのが仕事だから」との思いがあったという。
その姿を見つけたオーナーは驚き、「何をしたんだ!」と叫んだ。男性が「クマだよ」と答えると、オーナーはすぐに救急車を提案したが、男性は「血が止まればなんとかなる」と応じ、準備を優先しようとした。
診察の結果、右脇腹周辺の骨折、顔面の10針縫合の深い裂傷など、全治4週間の重傷だった。それでも男性は「防御姿勢なんて無理。とにかく必死だった」と語る。
近年のクマ行動の変化と“冬眠遅れリスク”
青森県は今季、クマの冬眠入りが遅れている可能性を指摘している。エサとなる木の実が不足し、冬眠に必要な体脂肪を蓄えられない個体が発生しているためだ。こうしたクマは、人里へ餌を求めて出没する頻度が増える傾向がある。
秋の深まりとともに通常なら出没件数は減少に向かう時期だが、今年は2796件と過去最多を更新し続け、例年より約2000件以上多いペースとなっている。今回の襲撃も、この“冬眠遅れ”の影響が指摘されている。
従来との比較:クマ行動の変化
■ クマ出没の変化比較
| 項目 | 従来 | 現在 |
|---|---|---|
| 冬眠時期 | 11月下旬〜12月上旬 | 遅れ・冬眠しない個体も |
| 出没件数 | 年間1500件前後 | 2025年は2796件 |
| 人里への接近 | 秋深まると減少 | 深秋も増加傾向 |
体験フロー:クマに遭遇したらどうするか
① 足跡・糞・爪痕を見つけたら引き返す
② 子グマが見えても絶対に近づかない
③ 音を立てて存在を知らせる
④ 走って逃げない(追われる可能性)
⑤ 背を向けず、ゆっくり後退する
⑥ 万が一飛びかかられたら、首を守る姿勢を最優先
FAQ:事件後のよくある疑問
- Q1. クマはなぜ朝に出没した?
A. エサ不足と冬眠遅れにより、活動時間が広がっている可能性がある。 - Q2. 1mのクマは危険なのか?
A. 成獣でなくても十分な破壊力があり、飛びかかりは命に関わる。 - Q3. 投げ飛ばすことは可能?
A. 非常に危険だが、体勢を崩す程度なら状況次第で可能とされる。 - Q4. 店舗の再開は?
A. 現在は臨時休業、柵の設置準備が進められている。 - Q5. 自衛策は?
A. 鈴、スプレー、ライト、音での警告が推奨される。
まとめ表:今回の襲撃が示したもの
■ 事件の総括
| 発生状況 | 朝の仕込み中に突然の襲撃 |
|---|---|
| 被害者 | 男性店員が骨折と裂傷 |
| 対応 | 無我夢中の反撃でクマ撃退 |
| 背景 | 冬眠遅れ・エサ不足・出没増加 |
| 地域の対応 | 柵の設置、警戒強化 |
クマ襲撃の背景にある「異常事態」 地域が向き合うべき現実
今回の襲撃事件は、単なる“偶発的な出来事”ではない。冬眠前のクマが町中へ出没し、人を襲うほど追い込まれている背景には、エサ不足や生息域の変化、温暖化など複合的な要因が重なっている。
男性店員の勇気ある対応によって最悪の事態は避けられたが、同様のケースはいつどこで起きても不思議ではない。地域全体での対策と、クマの行動を冷静に理解する姿勢がますます求められる。
恐怖を煽るだけではなく、根本原因と向き合うこと。それこそが、被害を減らし、安全な地域社会を守るための第一歩になる。
