中国渡航自粛で観光業界に影響拡大、大阪のホテルキャンセル急増の実態

中国渡航自粛措置の概要

中国政府は2025年11月14日、自国民に対して日本への渡航を控えるよう呼びかけました。この措置は高市早苗首相が国会答弁で台湾有事に関して「存立危機事態」に言及したことへの反発として実施されました。

渡航自粛は強制力を持つ渡航禁止ではありませんが、中国国内の旅行会社は日本行きツアーの販売を大幅に縮小しています。団体旅行の催行中止や個人旅行客への注意喚起が広がり、日本の観光業界に直接的な影響を及ぼし始めています。

日本政府観光局のデータによると、2025年1月から10月までの訪日中国人客数は全体の約23%を占めており、依然として最大の訪日客グループとなっています。

時系列で見る影響の推移

11月14日
中国政府が日本への渡航自粛を正式発表。外交部報道官が記者会見で日本政府の発言を批判しました。

11月15日〜20日
中国国内の大手旅行会社が日本行きツアーの新規予約受付を停止。既存予約のキャンセル対応が始まりました。

11月21日〜27日
大阪観光局の調査で、府内ホテル約20社において12月末までの中国人宿泊予約の50〜70%にキャンセルが発生していることが判明しました。

11月28日〜30日
東京や京都などの主要観光地で中国人観光客の減少が目視で確認されるようになりました。一方で東京都内のホテル業者からは「大きな影響はない」との声も聞かれています。

渡航自粛の背景と原因

今回の渡航自粛措置の直接的な原因は、高市首相の国会答弁における台湾有事への言及です。中国政府はこれを「一つの中国」原則への挑戦と受け止め、強く反発しました。

しかし背景には日中間の構造的な問題も存在します。尖閣諸島を巡る領土問題、歴史認識の相違、そして米中対立の中での日本の立ち位置などが複雑に絡み合っています。

中国は過去にも政治的な対立を理由に観光客の渡航を制限してきた実績があります。2012年の尖閣諸島国有化時にも同様の措置が取られ、日本の観光業界に大きな打撃を与えました。今回の措置も同様のパターンと言えます。

SNS上での反応

日本国内のSNSでは、今回の措置に対して様々な意見が交わされています。観光業界関係者からは「春節商戦が心配」「中国依存のリスクを痛感した」といった声が上がっています。

一方で一般ユーザーからは「オーバーツーリズムが緩和されて良い」「日本人がホテルを予約しやすくなる」といった肯定的な意見も見られます。

中国のSNSでは、日本旅行を楽しみにしていた個人からの落胆の声がある一方、政府の方針を支持する愛国的なコメントも多数投稿されています。現地の旅行関係者からは「個人客は完全には止められない」との分析もあります。

専門家による影響分析

航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は「春節商戦は厳しい状況になる。影響は春まで確定しており、回復は早くても半年から1年先」と予測しています。

観光経済学の専門家は、今回の事態を「チャイナリスクの顕在化」と分析します。特定国への依存度が高い観光戦略の脆弱性が露呈したと指摘しています。

一方で、ホテル価格の正常化や日本人客の回復という副次的効果も期待されています。東京、大阪、京都では高騰が著しかったホテルの宿泊価格が下がり始めており、国内旅行需要の喚起につながる可能性があります。

ただし鳥海氏は「オーバーツーリズムの緩和と日本人客の回復は期待できるが、春節の落ち込みを補うことにはならない」と慎重な見方を示しています。

過去の類似事例との比較

中国による観光制限は今回が初めてではありません。2012年の尖閣諸島国有化時には、訪日中国人客が前年比で約40%減少し、観光業界に深刻な影響を与えました。

当時との違いは、インバウンド全体の多様化が進んでいる点です。2012年当時は中国人客の比率が圧倒的に高く、代替市場が限られていました。

現在は韓国、台湾、欧米、東南アジアなど多様な国・地域からの訪日客が増加しており、中国依存度は2019年の約30%から2025年の約23%へと低下しています。

2017年の日韓関係悪化時にも韓国人観光客が減少しましたが、他国からの訪日客増加により全体への影響は限定的でした。今回も同様のパターンが期待されています。

観光業界が取るべき対策

観光事業者には、中国市場依存からの脱却が急務となっています。具体的には欧米や東南アジア、中東などの新興市場の開拓が重要です。

実際、2025年10月には13の国・地域が10月として過去最高の訪日客数を記録しました。中東は前年同月比33.8%増、ドイツは29.2%増と大幅な伸びを見せています。

ホテル業界では、多言語対応の強化やハラル対応など、多様な国からの観光客を受け入れる体制整備が進んでいます。特定市場への過度な依存を避け、リスク分散を図る戦略が重要です。

また、国内旅行需要の喚起も重要な対策です。ホテル価格の正常化を機に、日本人客を取り戻す施策が各地で展開されています。

よくある質問

まとめ