相続税路線価の上昇が続く中、生前贈与による相続税対策への注目が高まっています。年間110万円までの贈与であれば贈与税がかからない「暦年贈与」を活用すれば、計画的に財産を移転することで将来の相続税負担を大幅に軽減できます。しかし、2025年現在、生前贈与を巡る税制は改正が進んでおり、以前とは異なるルールも存在します。本記事では、生前贈与の基本的な仕組み、年間110万円の非課税枠の活用方法、注意すべきポイント、最新の税制改正の影響について詳しく解説します。
生前贈与と暦年贈与の基本
生前贈与とは、生きているうちに自分の財産を他人に無償で渡すことです。相続税対策として広く活用されており、計画的に行うことで相続財産を減らし、相続税の負担を軽減できます。生前贈与には「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2つの方法がありますが、最も一般的なのが暦年贈与です。
暦年贈与では、1年間(1月1日から12月31日まで)に受け取った贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかかりません。この110万円を「基礎控除額」と呼びます。
例えば、親が子どもに毎年100万円ずつ10年間贈与すれば、合計1000万円の財産を贈与税ゼロで移転できます。この1000万円は相続財産から除外されるため、将来の相続税を減らすことができます。
ただし、2025年現在、相続開始前7年以内の贈与については相続財産に加算されるルールがあるため、注意が必要です。
📌 生前贈与の要点
- 年間110万円までの贈与は贈与税非課税
- 受贈者1人あたりの金額で判断される
- 2025年現在、相続前7年以内の贈与は相続財産に加算
- 贈与契約書の作成と証拠の保管が重要
- 計画的に行えば数千万円の財産を移転可能
年間110万円の非課税枠の具体的活用法
年間110万円の非課税枠を最大限活用するには、計画的な贈与が必要です。第一に、複数の受贈者に贈与する方法です。110万円の基礎控除は受贈者1人あたりの金額なので、子どもが2人いれば年間220万円、孫が3人いればさらに330万円を非課税で贈与できます。
例えば、子ども2人と孫3人の計5人に毎年110万円ずつ贈与すれば、年間550万円、10年間で5500万円の財産を贈与税ゼロで移転できます。
第二に、長期間にわたって継続する方法です。早めに贈与を始めれば、それだけ多くの財産を移転できます。親が60歳から贈与を始めて80歳まで20年間続ければ、1人の子どもに対して2200万円の財産を移転できます。
第三に、110万円の枠を無駄なく使う方法です。例えば、109万円を贈与すると1万円分の枠を無駄にしてしまいます。可能な限り110万円に近い金額を贈与することで、枠を最大限活用できます。
第四に、現金だけでなく不動産や株式の贈与も検討する方法です。評価額が110万円以下の不動産持分や株式を贈与すれば、贈与税をかけずに財産を移転できます。
ただし、毎年同じ時期に同じ金額を贈与し続けると、税務署から「定期金の贈与」とみなされ、初年度に全額に課税される可能性があります。贈与の時期や金額を変えるなどの工夫が必要です。
2025年の税制改正による影響
生前贈与を巡る税制は、近年大きく改正されています。2025年現在、最も重要な改正点は「持ち戻し期間の延長」です。以前は、相続開始前3年以内の贈与が相続財産に加算されるルールでしたが、2025年現在は相続開始前7年以内の贈与が加算対象となっています。
ただし、7年以内の贈与すべてが加算されるわけではありません。相続開始前3年超7年以内の贈与については、その期間の贈与総額から100万円を控除した金額が加算されます。
例えば、2025年に相続が発生した場合、2018年から2022年までの5年間(3年超7年以内)の贈与総額が500万円だったとします。この場合、500万円から100万円を引いた400万円が相続財産に加算されます。
この改正により、相続直前の駆け込み贈与の効果は薄れましたが、長期間にわたる計画的な贈与の重要性は変わりません。むしろ、早めに贈与を始めることの重要性が増したと言えます。
また、相続時精算課税制度についても2025年から年間110万円の基礎控除が新設されるなど、使いやすくなっています。どちらの制度を選ぶかは、財産の種類や金額、家族構成によって最適解が異なります。
生前贈与で失敗しないための注意点
生前贈与は強力な節税手段ですが、適切に行わないと税務署から否認される可能性があります。第一に、贈与の事実を証明できるようにすることです。口頭での約束だけでは贈与と認められません。必ず贈与契約書を作成し、贈与した日付、金額、贈与者と受贈者の署名を明記します。
第二に、受贈者が自由に使える状態にすることです。親が子ども名義の口座を管理し、子どもが自由に使えない状態では「名義預金」とみなされ、贈与と認められません。通帳や印鑑は必ず受贈者が管理する必要があります。
第三に、銀行振込の記録を残すことです。現金手渡しではなく、贈与者の口座から受贈者の口座へ銀行振込することで、客観的な証拠が残ります。
第四に、定期金の贈与とみなされないよう工夫することです。毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると、税務署から「最初から大きな金額を贈与する約束だった」とみなされ、初年度に全額に課税される可能性があります。贈与の時期や金額を変える、贈与契約書を毎年作成するなどの対策が必要です。
第五に、受贈者が贈与の事実を認識していることです。子どもや孫が贈与されたことを知らない場合、贈与と認められません。特に未成年者への贈与では、親権者が適切に管理する必要があります。
生前贈与と他の相続税対策の組み合わせ
生前贈与は単独でも効果的ですが、他の相続税対策と組み合わせることでさらに大きな節税効果が期待できます。第一に、小規模宅地等の特例との組み合わせです。現金を生前贈与で減らしておき、相続財産としては自宅の土地を残すことで、小規模宅地等の特例を最大限活用できます。
第二に、生命保険との組み合わせです。贈与した現金で受贈者が生命保険に加入し、贈与者を被保険者とすることで、将来受け取る死亡保険金を相続税対策に活用できます。
第三に、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与との組み合わせです。教育資金は1500万円まで、結婚・子育て資金は1000万円まで非課税で一括贈与できる特例があります。これらの特例を使った後、さらに暦年贈与を併用することで、より多くの財産を移転できます。
第四に、住宅取得資金の贈与との組み合わせです。住宅取得資金については、一定額まで非課税で贈与できる特例があります。この特例を使った後、さらに暦年贈与を併用することが可能です。
第五に、養子縁組との組み合わせです。養子を迎えることで法定相続人が増え、基礎控除額が増加します。さらに、養子への生前贈与を行うことで、より多くの財産を非課税で移転できます。
これらの対策を組み合わせる際は、税理士に相談して最適なプランを立てることが重要です。
地価高騰時代における生前贈与の重要性
2025年の地価高騰が続く中、生前贈与の重要性はさらに高まっています。千葉県市川市では、10年で路線価が2.3倍に上昇しました。このような状況では、相続税の負担が急激に増加します。生前贈与によって現金や不動産を早めに移転しておくことで、将来の相続税負担を軽減できます。
特に、不動産の評価額が今後も上昇すると予想される地域では、早めに贈与することが有効です。評価額が低いうちに贈与すれば、贈与税の負担も少なくなります。
また、地価高騰により固定資産税や都市計画税の負担も増加しています。高齢者にとって、これらの税負担は家計を圧迫する要因となります。生前贈与によって不動産を子世代に移転すれば、親の税負担を軽減できます。
千葉県市川市に住む70代女性は「子どもにちゃんと相続できるか不安です」と語っています。このような不安を抱える高齢者は全国に多数います。生前贈与は、こうした不安を解消する有効な手段です。
ただし、生前贈与により親の財産が減少すると、親の老後資金が不足する可能性もあります。親の生活に必要な資金を確保した上で、余裕のある範囲で贈与を行うことが大切です。
生前贈与の開始時期と計画の立て方
生前贈与は、できるだけ早く始めることが重要です。親が60歳から80歳まで20年間贈与を続ければ、1人の子どもに2200万円を移転できます。一方、70歳から始めれば10年間で1100万円しか移転できません。贈与を始める時期が10年違うだけで、移転できる金額が2倍変わります。
理想的には、親が50代後半から贈与を始めることが推奨されます。この時期であれば、親もまだ元気で判断能力もあり、長期間にわたる計画的な贈与が可能です。
贈与計画を立てる際は、以下のステップで進めます。
第一に、現在の財産を洗い出します。不動産、預貯金、株式など、すべての財産をリストアップし、評価額を把握します。
第二に、将来の相続税額を試算します。現在の財産のまま相続が発生した場合、相続税がいくらになるかを計算します。
第三に、贈与する金額と期間を決めます。何年間で、いくらずつ、誰に贈与するかを決定します。
第四に、贈与契約書を作成し、実際に贈与を開始します。毎年記録を残し、証拠を保管します。
第五に、定期的に計画を見直します。税制改正や家族状況の変化に応じて、贈与計画を柔軟に調整します。
このような計画的なアプローチにより、生前贈与の効果を最大化できます。
よくある質問
Q1. 年間110万円を超える贈与をした場合、贈与税はいくらかかりますか?
贈与税は累進課税で、110万円を超えた部分に課税されます。例えば200万円贈与した場合、200万円-110万円=90万円が課税対象となり、税率10%で9万円の贈与税がかかります。500万円贈与した場合、390万円が課税対象となり、税率20%から控除額25万円を引いた53万円の贈与税がかかります。
Q2. 贈与契約書はどのように作成すればよいですか?
贈与契約書には、贈与の日付、贈与者と受贈者の氏名・住所、贈与する財産の内容(現金の場合は金額)、両者の署名と押印を記載します。特に決まった様式はありませんが、後で証拠として使えるよう、明確に記載することが重要です。不安な場合は、税理士や司法書士に作成を依頼することもできます。
Q3. 孫への贈与も年間110万円まで非課税ですか?
はい、孫への贈与も年間110万円まで非課税です。ただし、相続開始前7年以内に孫に贈与した財産は、原則として相続財産に加算されません(孫は法定相続人ではないため)。このため、孫への贈与は相続税対策としてより有効です。ただし、遺言で孫を相続人に指定した場合などは加算対象となります。
まとめ
生前贈与の年間110万円非課税枠を活用すれば、長期間にわたって大きな財産を贈与税ゼロで移転できます。2025年の地価高騰が続く中、計画的な生前贈与は相続税対策として極めて重要です。
2025年現在、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されるルールがあるため、できるだけ早く贈与を始めることが効果的です。複数の受贈者に贈与すれば、年間数百万円の財産を非課税で移転できます。
生前贈与を成功させるには、贈与契約書の作成、銀行振込による記録、受贈者による自由な管理が必須です。定期金の贈与とみなされないよう、贈与の時期や金額を変えるなどの工夫も必要です。税理士に相談して、最適な贈与計画を立てましょう。

