兵庫県が衝撃のクマ狩猟禁止へ “数の管理800頭”政策の裏にある現実と課題

都市上空に伸びる道を歩くクマと「プラネット・チェックリスト」の文字イラスト

あなたも今回の「兵庫県が今年度のクマ狩猟を禁止」というニュースを見て、「本当に大丈夫なの?」と感じたのではないでしょうか。

実は兵庫県が進める“クマの数の管理”は、単なる狩猟禁止の議論ではなく、20年前から積み重ねてきた「頭数調整」と「地域共存」の政策モデルでもあります。

一方で、岩手・秋田などクマが多い地域では同じ方式が通用しにくく、専門家からは「予算・人材・体制が不十分」という厳しい指摘も。

本記事では、兵庫県の政策の仕組み、全国で導入が難しい理由、そして“理想のクマ対策とは何か”までをわかりやすく整理します。

point

• クマを「800頭」で安定させる兵庫県独自の管理方針
• 狩猟禁止は「増やす」目的ではなく“過去から続く数調整”の一環
• 岩手・秋田では頭数が多すぎて同方式は困難
• 国も財政支援を表明し、全国での体制整備が急務に

兵庫県の“クマ数管理”とは何か

兵庫県の政策の特徴は、他の自治体にはほとんど見られない「目標頭数(800頭)」を定めた管理型運用にあります。

横山真弓教授によれば、クマは自然増で毎年約15%増えると言われ、放置すれば数年で急増する可能性があります。そこで兵庫県は、頭数に応じて明確な対応を決めています。

● 兵庫県のクマ数に応じた対応方針

・400頭未満 → 狩猟捕獲しない、有害捕獲も極力殺処分せず

・400〜800頭未満 → 狩猟捕獲なし、有害捕獲は原則殺処分

・800頭以上 → 狩猟捕獲を解禁、有害捕獲は原則殺処分

この“段階分け”に沿って個体数をコントロールし、800頭前後の安定状態を保つことを目指してきました。

兵庫県がこの政策を成功させている理由は、20年前(頭数約100頭)から開始したため、増加と管理が追いついている点にあります。現在3000〜4000頭規模の東北とは条件が異なります。

なぜ全国では同じ政策が難しいのか

兵庫県方式は理想的と評価される一方、岩手・秋田などクマが多い自治体では「実施したくてもできない」現状があります。

理由はシンプルで、頭数が多すぎて毎年調査ができないからです。

● 岩手県 「頭数把握は5年に1度。2022年は約3700頭。毎年調査の余力はなし」

● 秋田県 「頭数把握は5年に1度。2020年で約4400頭。生息数調査より駆除が優先」

個体数が多い地域では調査コストが膨大になり、“まず被害対策、次に管理”という優先順位にならざるを得ません。

横山教授も「予算・人材・体制が不十分なままでは実情の把握が遅れ、対策も遅れる」と警鐘を鳴らします。

クマ被害が増える背景と“日本の構造問題”

クマによる人的被害は近年急増し、2023〜2024年は過去最多レベルになりました。その背景には、以下のような“複合要因”があります。

・里山の管理放棄(高齢化で農地・森林が荒廃)
→ クマが人里へ降りやすくなる

・ドングリなど餌不足の年(凶作年)
→ 食べ物を求めて住宅地へ

・生息域の拡大と個体数の自然増
→ 東北では数千頭規模まで増加

・人間活動との境界が曖昧化
→ キャンプブーム・登山者増加なども影響

つまり、クマ問題は「山にエサがない」「クマが凶暴になった」だけではなく、日本社会全体の構造変化と密接に結びついた問題といえます。

国の動き:財政支援と「対策パッケージ」整備

国も現状を重く見ており、予算委員会で高市早苗総理は、自治体へのクマ対策の財政支援を強化すると表明しました。

政府は「クマ被害対策パッケージ」をまとめ、以下のような施策を進めるとしています。

・自治体が頭数調査をしやすくする予算支援
→ 東北地域でも“管理型”の下地づくりに

・電気柵設置などの被害防止費用の補助

・人里との緩衝地帯の整備支援

・専門人材の育成と配置

政策の方向性としては、兵庫県型の「長期管理」を全国へ広げることを見据えていると考えられます。

兵庫県モデルの強みと課題

【強み】
・長期データをもとにした精度の高い推計
・段階ごとの明確な数値基準
・狩猟と保護、双方をバランスする政策哲学

【課題】
・800頭維持の根拠について、今後も調整が必要
・人里での遭遇事故はゼロにならない
・毎年の詳細調査は財政負担が大きい

兵庫県モデルは優れている反面、継続には専門職員・調査費・データ整備が不可欠です。

FAQ:よくある疑問

Q1. 狩猟禁止でクマが増えすぎない?
A1. 兵庫県は800頭を上限とする数管理を実施しており、必要に応じて有害捕獲で調整されます。

Q2. 他の県も同じ方式を採用できる?
A2. 可能だが、岩手・秋田など個体数が大量の地域では調査費用と人員不足が大きな課題です。

Q3. そもそも“800頭”に根拠はある?
A3. 生息地面積や人里との距離など複数要素を踏まえた数値で、今後も見直される可能性があります。

Q4. クマが人里に来る最大の理由は?
A4. 里山の荒廃と餌不足、個体数増加が重なり、境界が曖昧化しているためです。

Q5. 今後、国はどう支援していく?
A5. 調査費の支援、人材育成、被害防止設備への補助など、自治体の体制強化を進めています。

まとめ:クマ対策の理想は「地域と自然の共存」

兵庫県が進めてきた“数の管理”は、クマと人が共存する未来に向けた一つのモデルです。しかし全国で同じ施策を行うには、財政・人材・調査体制の改善という大きな課題が依然として残ります。

国が動き始めた今こそ、各地域が自分たちの実情に合った対策を選び、長期的な管理と被害防止を同時に進めていくことが求められています。

「クマを守りながら、人の暮らしも守る」――そのバランスをどう取るかが、2025年の日本社会に問われています。

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