クマスプレー効果に疑問の製品拡大と規制必要性

山の島を背景に、海辺に立つクマたちとカモメが描かれた自然風景イラスト

あなたも「クマスプレーなら安全」だと思っていませんでしたか? 実は市場には効果が疑問視される製品が多数出回っているという衝撃の実態が明らかになりました。


政府が11月14日に発表したクマ対策パッケージでスプレー導入支援が盛り込まれた一方で、クマ研究者らは「国による規制が必要」と訴えています。


この記事では以下の点を詳しく解説します:

point
  • 花巻市が示したクマスプレー補助金対象の基準
  • 効果不明な「クマよけスプレー」の実態
  • 米国EPA基準と日本の規制の格差

政府クマ対策パッケージでスプレー導入支援を明記

政府は2024年11月14日、各地で相次ぐクマによる人的被害の深刻化を受け、改定版の「クマ被害対策パッケージ」を公表しました。


このパッケージには、クマスプレーの購入に対する補助金支給をはじめ、ガバメントハンターの確保や育成など、緊急的・短期的・中期的な三段階の対策が盛り込まれています。

しかし、クマスプレー市場には効果が認められない製品が多数流通しており、専門家からは「国による規制が必要」との声が上がっています。


花巻市が補助金対象スプレーに明確な基準を設定

岩手県花巻市の先進的取り組み

クマスプレー購入に補助金を支給する岩手県花巻市は、2024年11月5日、対象となるスプレーの具体的な目安を示しました。

花巻市が示した補助金対象の基準

☑ 成分:カプサイシン(トウガラシエキス)1~2%

☑ 噴射距離:7メートル以上

☑ 噴射時間:6秒以上

これらの基準は、米国EPA(環境保護庁)の認証基準に基づくものです。花巻市の担当者によると、この基準は北米に生息するホッキョクグマ、グリズリー、クロクマを対象に効果の検証を重ねて規定されたもので、日本のヒグマやツキノワグマに対しても効果が確認されています。

補助金制度の詳細

花巻市の補助制度では、購入費の4分の1(上限は1本につき5,000円)を補助します。対象は市内に住所を有する18歳以上の住民、または市内事業所の従業員などです。本数に上限はありませんが、1本ごとに申請が必要で、2本目購入時には1本目を使い切っていることを確認します。


米国EPA基準と日本の規制格差が浮き彫りに

米国では厳格な認証制度が存在

米国でクマスプレーを販売するには、EPA(米国環境保護庁)の基準を満たすことが必須です。EPAが認証した製品以外を「クマスプレー」として販売することは法律で禁止されています。

EPA認証製品の主なブランド

  • COUNTER ASSAULT(カウンターアソールト)
  • FRONTIERSMAN(フロンティアーズマン)
  • GRIZ GUARD(グリズガード)
  • GUARD ALASKA(ガードアラスカ)
  • UDAP(ユーダップ)

国産では「熊一目散」(バイオ科学・徳島県阿南市)がEPAのガイドラインに準拠しています。

日本にはガイドラインが存在しない

一方、日本にはクマスプレーに関するガイドラインがいまだ存在しません。現在、市場にはクマスプレーとしてさまざまな商品が出回っており、EPAの基準を満たさないものも少なくありません。

この状況について、花巻市の取り組みは「クマ対策を一歩進めた」と評価されています。


問題視される「ポリスマグナム」の実態

催涙スプレーがクマスプレーとして販売

クマ研究者の間で「クマスプレーとしてはいかがなものか」と問題視されている商品のひとつが、米国製の催涙スプレー「ポリスマグナム」です。

ポリスマグナムの販売状況

輸入販売会社「ティエムエムトレーディング」(TMM社・北九州市)によると、この製品は「複数の県警察本部でツキノワグマ用『クマよけスプレー』として正式採用されている」としています。

しかし、ポリスマグナムのメーカーホームページ(英語記載)には、対人用の「催涙スプレー(pepper spray)」として説明されています。つまり、製造元は対人用として販売しているものを、日本国内では「クマよけスプレー」として販売している実態が明らかになりました。

EPA認証との違い

ポリスマグナムはEPA登録品ではありません。EPA認証製品との主な違いは以下の通りです:

対人用催涙スプレーの特徴

  • 射程:約5メートル
  • 噴射形態:液状で直線的に飛ぶ
  • カプサイシン濃度:1%前後
  • 対象:人間

EPA認証クマスプレーの特徴

  • 射程:7.6メートル以上
  • 噴射形態:霧状で拡散する
  • カプサイシン濃度:1~2%
  • 内容量:224グラム(7.9オンス)以上
  • 噴射時間:6秒以上

クマスプレーが霧状に拡散する設計なのは、慌てている状況でも狙いが不正確であってもクマの顔面に当たりやすくするためです。


専門家「国が規制すべき」と苦言

クマ研究者からの警告

複数のクマ研究者は、効果が不明な製品が市場に氾濫している現状に警鐘を鳴らしています。

カウンターアソールトの輸入代理店である有限会社アウトバックの関係者は、「クマスプレーはEPAが認可した製品、もしくはそれに準ずるものを選んでほしい」と訴えています。

規制がない日本の課題

現在の問題点

☑ 日本にクマスプレーに関する公的な規制やガイドラインが存在しない

☑ 米国で催涙スプレーとして販売される製品を日本国内で「クマスプレー」として販売しても違法ではない

☑ 効果が実証されていない製品が補助金の対象になる可能性がある

☑ 消費者が適切な製品を選ぶための判断材料が不足している

専門家らは「国による明確な基準設定と規制が必要」と訴えています。


クマ被害の深刻化と対策の現状

過去最多を記録した2023年度

2023年度は、クマによる人身被害が年間219人(うち死者6人)と過去最多を記録しました。2024年も秋にかけて市街地へのクマ出没が増加し、11月5日時点で死者数は全国で過去最多の13人に上っています。

政府の総合的な対策

クマ被害対策パッケージの主な内容

緊急的な対応

  • 警察によるライフル銃を使用したクマの駆除
  • 自衛隊OB、警察OBへの協力要請
  • 農林業従事者や学校の安全確保

短期的な対応

  • 春季のクマ捕獲強化
  • 捕獲単価の増額
  • ガバメントハンターの人件費や資機材等の支援
  • 緩衝帯の整備、誘因物の撤去、電気柵の設置
  • クマスプレーの購入補助

中期的な対応

  • 自治体における専門人材の育成
  • 高度な捕獲技術を持つ事業者・捕獲技術者(ガバメントハンター等)の育成

これらの対策には、指定管理鳥獣対策事業交付金や鳥獣被害防止総合対策交付金による速やかな支援が実施されます。


クマスプレー選びのポイント│消費者が知るべき基準

EPA認証製品を選ぶメリット

EPA認証を受けた製品は、以下の点で信頼性が高いと言えます:

☑ 北米のクマ(グリズリー、クロクマ)に対する効果が実証されている

☑ 日本のヒグマやツキノワグマに対しても効果が確認されている

☑ 噴射距離、噴射時間、カプサイシン濃度などの基準をクリアしている

☑ 緊急時の使用を想定した設計になっている

製品確認の方法

EPA認証製品の見分け方

本体ラベルに「EPA Registration No.」(EPA登録番号)があるかどうかで確認できます。ネット上では、米国製のクマスプレーと外観がよく似ている商品で、ラベルにEPA登録番号のないものが複数出回っているため、注意が必要です。

購入前のチェックリスト

☑ メーカーの公式情報を確認する

☑ EPA登録番号の有無を確認する

☑ カプサイシン濃度が1~2%か確認する

☑ 噴射距離が7メートル以上か確認する

☑ 噴射時間が6秒以上か確認する

☑ 内容量が224グラム以上か確認する


今後の展望│国による規制強化の必要性

自治体単位の基準設定が進む可能性

花巻市のように、補助金対象製品に明確な基準を設ける自治体が今後増える可能性があります。しかし、自治体ごとに基準が異なると消費者の混乱を招く恐れもあります。

国レベルでの対応が求められる理由

統一基準の必要性

☑ 消費者保護の観点から、効果が不明な製品の流通を規制する必要がある

☑ 補助金の適正使用のため、対象製品の基準を明確にすべき

☑ 人命に関わる製品であるため、科学的根拠に基づいた基準設定が不可欠

☑ 自治体ごとに基準が異なると混乱を招く

専門家らは「米国EPAのような認証制度を日本でも導入すべき」と提言しています。

消費者の自己防衛も重要

国による規制が整備されるまでは、消費者自身が製品を見極める必要があります。購入を検討する際は、EPA認証を受けているか、または花巻市が示した基準を満たしているかを確認することが推奨されます。


FAQ│クマスプレーに関するよくある質問

Q1: クマスプレーは100%安全を保証するものですか?

A1: いいえ、クマスプレーは万能ではありません。適切な製品を選び、正しい使用方法を理解した上で、他の対策(クマ鈴、複数人での行動など)と組み合わせることが重要です。EPA認証製品でも100%の安全は保証されていないため、クマの生息地に入る際は十分な注意が必要です。

Q2: 対人用催涙スプレーではクマに効果がないのですか?

A2: 対人用催涙スプレーは射程が短く(約5メートル)、噴射が直線的で拡散しないため、クマへの使用には不向きです。また、カプサイシン濃度や内容量もクマ用として設計されたものより低く、緊急時に十分な効果が得られない可能性が高いとされています。専門家はEPA認証製品か、それに準拠した製品の使用を推奨しています。

Q3: 花巻市のような補助金制度は全国で実施されていますか?

A3: 2024年11月現在、クマスプレー購入に対する補助金制度を実施している自治体は一部に限られています。花巻市は補助金対象製品に明確な基準を設けた先進的な事例です。政府のクマ被害対策パッケージでスプレー導入支援が盛り込まれたことから、今後、他の自治体でも同様の制度が広がる可能性があります。

Q4: EPA認証製品はどこで購入できますか?

A4: EPA認証製品は、アウトドア用品店や一部のオンラインショップで購入できます。主な製品としては「カウンターアソールト」「フロンティアーズマン」「UDAP」などがあり、国産では「熊一目散」がEPA準拠製品として販売されています。購入時は必ず本体ラベルにEPA登録番号があるか確認してください。近年は需要増加により品薄傾向が続いているため、早めの確保が推奨されます。

Q5: クマスプレーの使用期限はありますか?

A5: はい、クマスプレーには使用期限があります。多くの製品は製造から2~4年が使用期限とされています。期限を過ぎたスプレーは噴射圧力が低下したり、成分が劣化したりする可能性があるため、効果が十分に発揮できない恐れがあります。定期的に使用期限を確認し、期限が近づいたら新しい製品に交換することが推奨されます。


まとめ│効果不明な製品氾濫に規制強化を

クマ被害が深刻化する中、政府は11月14日にクマスプレーの導入支援を含む対策パッケージを公表しました。しかし、日本には米国EPAのようなクマスプレーに関する公的な規制やガイドラインが存在せず、効果が疑問視される製品が市場に多数出回っている実態が明らかになりました。

岩手県花巻市は、補助金対象製品にEPA基準に基づく明確な目安を示すという先進的な取り組みを行っています。しかし、専門家らは「自治体単位の対応では限界があり、国による統一的な規制が必要」と訴えています。

クマによる人的被害が過去最多を記録する中、人命に関わる製品だからこそ、科学的根拠に基づいた基準設定と規制強化が急務と言えるでしょう。消費者自身も、EPA認証製品や準拠製品を選ぶなど、自己防衛の意識を持つことが重要です。


外部参考情報

政府公式発表: クマ被害対策等に関する関係閣僚会議(内閣官房)

環境省: クマに関する各種情報・取組

花巻市: 有害獣対策事業補助金

米国EPA: Environmental Protection Agency(英語)


最新の情報は各自治体や関係機関の公式サイトをご確認ください。

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