2025年の相続税路線価は4年連続で上昇し、都市部や観光地を中心に地価高騰が続いています。千葉県市川市では10年で路線価が2.3倍に達し、親から受け継いだ土地であっても相続税が払えず、売却を余儀なくされる家庭が増加しています。長年住み慣れた土地を手放すことは、住民にとって大きな決断です。本記事では、相続税納税のために土地を売却せざるを得ない実態、売却の具体的な流れ、売却時にかかる税金、注意すべきポイントについて詳しく解説します。
相続税納税のために土地売却が増える理由
相続税は原則として現金での一括納付が求められます。しかし、相続財産の大部分が不動産の場合、現金が手元にないため納税できないケースが発生します。千葉県市川市行徳地区に住む70代女性は「この周辺でも、相続税が払えずに家を売ってしまった人がいます。昔からの土地は広いので、戸建分譲用地として売却するか、マンションにする人が多いですね」と語っています。
2025年の相続税路線価は前年比2.7%上昇し、4年連続の上昇となりました。特に千葉県市川市行徳駅前では、2015年に1平方メートルあたり44万円だった路線価が2025年には101万円と約2.3倍に達しています。
相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」です。法定相続人が2人の場合、基礎控除額は4200万円となります。市川市の例で100平方メートルの土地を相続すれば評価額は1億100万円となり、約5900万円が課税対象です。相続税額は数百万円から1000万円以上に達します。
このような高額な相続税を現金で支払える家庭は限られています。結果として、土地の一部または全部を売却して納税資金を確保する選択をせざるを得ないのです。
📌 土地売却が増える要因
- 相続税路線価が4年連続上昇、前年比2.7%増
- 都市部や観光地で特に地価高騰が顕著
- 相続財産の大部分が不動産で現金が不足
- 相続税は原則として現金一括納付が必要
- 延納や物納よりも売却を選択する家庭が増加
相続税納付期限と土地売却のタイミング
相続税の申告期限と納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。この期限までに相続税を納めなければ、延滞税が課せられます。土地売却には一定の時間がかかるため、早めに動き出すことが重要です。一般的な土地売却の流れは以下の通りです。
第一段階として、不動産会社への相談と査定依頼に1か月程度かかります。複数の不動産会社に査定を依頼し、適正な売却価格を把握します。
第二段階として、媒介契約の締結と販売活動に2か月から6か月程度かかります。広告掲載、内覧対応などを経て、買主を探します。
第三段階として、売買契約の締結と決済に1か月程度かかります。契約条件の調整、ローン審査、所有権移転登記などの手続きを行います。
全体で4か月から8か月程度かかるため、相続開始後すぐに売却活動を始めないと、10か月の期限に間に合わない可能性があります。
もし売却が間に合わない場合は、延納制度を利用して分割払いにする、金融機関から相続税支払い専用ローンを借りるなどの方法があります。ただし、延納には利子税が、ローンには利息がかかるため、可能な限り期限内に売却して納税することが望ましいです。
土地売却の具体的な流れと手順
相続税納税のための土地売却は、以下の手順で進めます。ステップ1として、遺産分割協議を行います。相続人全員で話し合い、誰がどの財産を相続するかを決定します。土地を売却する場合も、まず相続人の誰かが相続登記を行ってから売却する必要があります。
ステップ2として、相続登記を行います。被相続人名義の土地を相続人名義に変更します。司法書士に依頼するのが一般的で、費用は10万円から20万円程度です。2025年現在、相続登記は義務化されており、相続を知った日から3年以内に登記しないと過料が科せられます。
ステップ3として、不動産会社に査定を依頼します。複数の不動産会社に査定を依頼し、適正な売却価格を把握します。インターネットの一括査定サービスを利用すると便利です。
ステップ4として、媒介契約を締結します。不動産会社と媒介契約を結び、販売活動を開始します。媒介契約には専属専任媒介、専任媒介、一般媒介の3種類があります。
ステップ5として、売却活動を行います。不動産会社が広告掲載、内覧対応などを行い、買主を探します。
ステップ6として、売買契約を締結します。買主が見つかったら、売買契約を結びます。通常、契約時に手付金として売却代金の10%程度を受け取ります。
ステップ7として、決済と引き渡しを行います。残代金を受け取り、所有権移転登記を行って引き渡しを完了します。
ステップ8として、売却代金で相続税を納付します。売却代金から必要経費を差し引いた金額で相続税を納めます。
土地売却時にかかる税金と費用
相続した土地を売却する際には、様々な税金と費用がかかります。第一に、譲渡所得税がかかります。売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた利益(譲渡所得)に対して課税されます。相続した土地の場合、取得費は被相続人が購入した時の価格になります。
譲渡所得税の税率は、所有期間によって異なります。相続の場合、被相続人の所有期間を引き継ぐため、多くの場合は長期譲渡所得(所有期間5年超)となり、税率は所得税15%、住民税5%の計20%です。
ただし、相続した土地を相続税の申告期限から3年以内に売却した場合、「相続税の取得費加算の特例」が適用され、支払った相続税の一部を取得費に加算できます。これにより譲渡所得を減らし、譲渡所得税を軽減できます。
第二に、仲介手数料がかかります。不動産会社に支払う手数料で、売却価格の3%+6万円(税別)が上限です。例えば5000万円で売却した場合、仲介手数料は156万円+消費税となります。
第三に、登記費用がかかります。所有権移転登記の費用は買主負担が一般的ですが、抵当権抹消登記(ローンが残っている場合)は売主負担です。司法書士報酬を含めて数万円から10万円程度です。
第四に、測量費用がかかる場合があります。境界が不明確な場合、測量が必要になり、30万円から80万円程度かかります。
これらの費用を差し引いた金額が、実際に手元に残る売却代金となります。
土地の一部売却か全部売却かの判断
相続税を納めるために、土地の全部を売却する必要はありません。一部売却という選択肢もあります。一部売却のメリットは、自宅を残せることです。例えば、200平方メートルの土地のうち100平方メートルを売却すれば、残りの100平方メートルに自宅を残して住み続けることができます。
ただし、一部売却には条件があります。土地を分筆(1つの土地を複数に分ける)する必要があり、分筆後のそれぞれの土地が建築基準法上の接道義務を満たす必要があります。また、分筆には測量が必須で、費用と時間がかかります。
全部売却のメリットは、手続きが簡単で売却しやすいことです。買主も土地全体を購入できるため、価格交渉がしやすくなります。また、まとまった資金が得られるため、相続税だけでなく将来の生活資金も確保できます。
デメリットは、住み慣れた土地を完全に手放すことになる点です。新たな住居を探す必要があり、引っ越し費用もかかります。
どちらを選ぶかは、相続税の金額、土地の広さ、家族の状況、今後の生活設計などを総合的に考えて判断する必要があります。
千葉県市川市の不動産関係者は「昔からの土地は広いので、戸建分譲用地として売却するか、マンションにする人が多い」と語っています。広い土地の場合、分筆して一部を売却し、残りを賃貸経営に活用するという選択肢もあります。
売却以外の相続税納付方法との比較
土地売却以外にも、相続税を納付する方法があります。それぞれのメリットとデメリットを比較します。第一に、延納制度です。相続税を分割払いにできる制度で、最長20年まで延納が可能です。メリットは土地を売却せずに済むことですが、デメリットは利子税がかかることです。利子税の割合は年0.9%から6.6%程度で、分割期間が長くなるほど総支払額が増えます。
第二に、物納制度です。相続した不動産そのもので納税する方法です。メリットは現金が不要なことですが、デメリットは物納が認められる条件が厳しいことです。物納できるのは延納でも納付が困難な場合に限られ、土地の状態や権利関係によっては物納が認められないこともあります。
第三に、金融機関のローンです。相続税支払い専用ローンを提供している銀行もあります。メリットは土地を売却せずに済むことですが、デメリットは利息がかかり、返済負担が家計を圧迫することです。
第四に、土地売却です。メリットは確実に納税資金を確保できること、追加の利息や利子税がかからないことです。デメリットは土地を手放すことになることですが、売却により得た資金で新たな生活を始めることもできます。
現実的には、現金資産が少ない家庭では土地売却が最も合理的な選択となるケースが多いです。
土地売却で失敗しないための注意点
相続税納税のための土地売却で失敗しないためには、以下の点に注意が必要です。第一に、複数の不動産会社に査定を依頼することです。1社だけでは適正価格が分からないため、最低でも3社以上に査定を依頼します。査定価格に大きな差がある場合は、その理由を確認します。
第二に、焦って安値で売却しないことです。相続税の納付期限が迫っていると焦りがちですが、相場より大幅に安い価格で売却すると損をします。期限に余裕を持って売却活動を始めることが重要です。
第三に、相続税の取得費加算の特例を活用することです。相続税の申告期限から3年以内に売却すれば、支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。
第四に、境界を確定しておくことです。隣地との境界が不明確だと、売却時にトラブルになる可能性があります。必要に応じて測量を行い、境界を確定させておきます。
第五に、専門家に相談することです。相続税の計算、土地の評価、売却時の税金など、専門的な知識が必要な場面が多いため、税理士や不動産鑑定士に相談することを推奨します。
第六に、遺産分割協議を早めに完了させることです。相続人間で揉めると売却が遅れ、納付期限に間に合わなくなる可能性があります。
第七に、売却代金の使い道を明確にしておくことです。相続税納付後に余剰金が出る場合、その使い道を事前に相続人間で話し合っておくとトラブルを防げます。
よくある質問
Q1. 相続税の納付期限に間に合わない場合はどうなりますか?
相続税の納付期限(相続開始から10か月)を過ぎると、延滞税が課せられます。延滞税は年14.6%(当初2か月は年7.3%)と高率です。期限に間に合わない可能性がある場合は、早めに税務署に相談し、延納制度の利用を検討してください。無断で滞納すると財産差押えの可能性もあります。
Q2. 相続税の取得費加算の特例とは何ですか?
相続税の取得費加算の特例は、相続した土地を相続税の申告期限から3年以内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。これにより譲渡所得が減り、譲渡所得税を軽減できます。特例を受けるには確定申告が必要です。相続税を支払った証明書類を保管しておきましょう。
Q3. 共同相続人がいる場合、土地売却はどうすればよいですか?
土地を複数の相続人で共有している場合、売却には共有者全員の同意が必要です。1人でも反対すると売却できません。遺産分割協議で、特定の相続人1人が土地を相続し、その人が売却するという方法が一般的です。または、共有名義のまま全員で売却し、売却代金を持分に応じて分配する方法もあります。
まとめ
2025年の地価高騰により、相続税が払えず土地を売却する家庭が増加しています。千葉県市川市では10年で路線価が2.3倍に達し、数百万円から1000万円以上の相続税を納めるために土地売却を選択するケースが続出しています。
相続税の納付期限は相続開始から10か月以内です。土地売却には4か月から8か月かかるため、早めに売却活動を開始することが重要です。売却時には譲渡所得税や仲介手数料がかかりますが、相続税の取得費加算の特例を使えば税負担を軽減できます。
土地の一部売却か全部売却かは、相続税の金額、土地の広さ、今後の生活設計を考えて判断します。複数の不動産会社に査定を依頼し、焦らず適正価格で売却することが大切です。税理士や不動産専門家に相談して、最適な方法を選びましょう。

