特にツキノワグマとヒグマの出没が相次ぐ中で、「2種の違いを正しく理解すること」が安全対策の第一歩だ。
岩手大学の山内貴義准教授は、性格・食性・行動域の差を指摘しつつ、「臆病な一面がある一方で、条件次第では危険性も高い」と警鐘を鳴らす。
この記事では、ツキノワグマとヒグマの違いを科学的・生態的視点から解説する。
- 日本に生息するクマはツキノワグマとヒグマの2種
- 体格・食性・生息地・性格に明確な違いあり
- ヒグマは北海道のみ、ツキノワグマは本州と四国
- 2025年度はツキノワグマの被害が過去最多に
- 駆除や捕獲には高い技術が必要で成功率は2〜3割程度
ツキノワグマとヒグマ 生息地と体格の違い
クマ科は世界で8種類が確認されており、ジャイアントパンダもその一種だ。
日本に生息するのはツキノワグマ(本州・四国)とヒグマ(北海道)の2種類である。
岩手大学農学部の山内貴義准教授によれば、「ヒグマは北海道のみ、生息域は山岳地帯から河川まで広く、ツキノワグマは本州と四国に分布している」とのことだ。
| 項目 | ツキノワグマ | ヒグマ |
|---|---|---|
| 生息地 | 本州・四国 | 北海道 |
| 体重 | 40〜120kg | 100〜300kg(最大400kg超) |
| 体長 | 100〜140cm | 140〜200cm |
| 主食 | ブナの実、ドングリ、果実 | 植物・魚類(サケ・マス)・昆虫 |
| 性格 | 臆病で慎重 | 警戒心が強く、攻撃的になる場合も |
ヒグマの最大級個体は体重400kg超も
北海道では過去に体重約400kgのヒグマが駆除された例もあり、国内最大級の哺乳類として知られている。
一方でツキノワグマは小柄だが、ブナ林や人里近くに生息しており、人との遭遇リスクが高い。
どちらも本来は臆病な性格だが、食料不足や人への慣れによって危険な行動を取るケースが増えている。
2025年度は過去最悪の被害 ツキノワグマの人身事故が急増
FNNプライムオンラインの報道によると、2025年度のクマによる死者は13人。
内訳はツキノワグマが11人、ヒグマが2人で、過去最悪の被害件数となった。
東北地方ではブナの実の不作が続き、山の食料が減少した影響で人里への出没が相次いでいる。
| クマの種類 | 死者数 | 主な発生地域 |
|---|---|---|
| ツキノワグマ | 11人 | 岩手・秋田・福島など |
| ヒグマ | 2人 | 北海道(十勝・北見など) |
岩手大学の山内准教授は、「ツキノワグマは高密度で生息している地域が多く、ヒグマよりも遭遇機会が多い」と分析。
一方でヒグマは個体数こそ少ないが、体格が大きく攻撃力も高いため、ひとたび出没すると深刻な被害につながるという。
クマの捕獲は「成功率2〜3割」 難易度の高い作業
環境省は11月7日、クマ対策として「警察OBなどへの狩猟免許取得支援」を表明。
ハンターの高齢化が進む中で、緊急時に対応できる人材確保が課題となっている。
一方で、クマの捕獲は非常に難しく、わなによる捕獲成功率は2〜3割にとどまる。
山内准教授は「クマは警戒心が極めて強く、餌を使っても近寄らない個体も多い。熟練したハンターの経験が不可欠」と説明。
餌を仕掛けてもすぐには近づかず、においや人の気配を敏感に察知して逃げることがあるため、「技量が高い人ほど成功率が上がる」と話す。
- 罠の設置・回収に時間と経験が必要
- 夜間の活動が多く、監視が難しい
- 地域の人員・予算が不足している
- ハンターの高齢化による人手不足
- 警察・自衛隊の連携訓練が不十分
冬眠はまだ先 人間の食料に依存するクマが増加
例年であれば、11月下旬から12月にかけて冬眠期に入るクマだが、今年は食料不足や人間の生活圏での餌探しによって冬眠が遅れている。
専門家によると、人の残飯や果樹園の果実を食べる「人慣れ個体」は年末まで活動することもあり、注意が必要だ。
「冬眠前だから安心」という油断は禁物だ。
SPキャスターの中村竜太郎氏は「自衛隊や警察も出動するほど、いまや市街地でクマと遭遇するリスクが現実化している」と警鐘を鳴らした。
冬眠期直前の今こそ、クマ対策の強化が求められている。
FAQ:ツキノワグマとヒグマの違いQ&A
Q1. ツキノワグマとヒグマはどこが違う?
A1. 生息地は異なり、ツキノワグマは本州・四国、ヒグマは北海道にのみ生息します。体格もヒグマのほうが大きいです。
Q2. どちらのほうが危険?
A2. 一概には言えませんが、ヒグマは大型で攻撃力が高く、ツキノワグマは遭遇頻度が多いため人的被害が増えています。
Q3. クマの性格に違いはある?
A3. ツキノワグマは臆病で慎重、ヒグマは警戒心が強く攻撃的になることもあります。
Q4. 駆除は簡単にできる?
A4. いいえ。クマは非常に警戒心が強く、捕獲成功率は約2〜3割とされています。
Q5. いつまで注意が必要?
A5. 冬眠前の12月末までは活動が続くとみられ、今後も警戒が必要です。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 主な違い | 体格・食性・生息地・性格 |
| 被害状況 | 2025年度は13人死亡(うちツキノワ11人) |
| 捕獲の難易度 | 罠成功率2〜3割、警戒心が強い |
| 対策 | 人慣れ個体への餌管理、ハンター人材の確保 |
| 冬眠時期 | 例年12月上旬〜翌春、今年は遅れの可能性 |
「臆病でも油断禁物」 人とクマの共存に向けて
ツキノワグマもヒグマも本来は臆病で、人を避けて暮らす動物だ。
しかし、気候変動や人間活動の拡大によって行動範囲が重なり、出没リスクが高まっている。
山内准教授は「クマを恐れるより、まず理解することが共存の第一歩」と語る。
自然の中で生きるクマを“敵”とみなすのではなく、環境を見直し、適切な距離を取る。
それが、人と野生動物が共に生きる社会への現実的な解答かもしれない。
冬が近づくいまこそ、クマをめぐる問題を「遠い山の話」ではなく、身近な課題として考える時期に来ている。
